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十干十二支 -- 干支(えと・かんし) 『漢字文化の世界』(藤堂明保・角川選書) を参照!
1.十干(じっかん)と十二支(じゅうにし)について 2.十干の意味について 3.十干の日本語読みについて 4.十二支の意味について 1.十干と十二支について トップ↑ 漢代の人は、甲乙丙丁・・・を「十干」といい、子丑寅卯・・・を「十二支」と名づけた。たとえば前漢の『白虎通』という書物には、「甲乙は幹(カン)なり。子丑は枝(シ)なり」とある。つまり、干=幹、支=枝なのである。人体でいうと、肝は人体の中心をなす幹であり、肢(手や足)は人体末端の枝である。 (例) 体幹 ←→ 四肢
殷代の人々は、干と支とを組み合わせて日次を示すのに用いた。殷代の卜辞は、ほとんどすべて「甲子に卜す」のように、まず最初に占いをした日付を明示する。また、殷代の王は、祖甲・帝乙のように、それぞれ生まれた日の甲乙丙・・・を取って称号としていた。干は全部で10あるので「十干」といい、支は12あるので「十二支」という。 その序列は次のとおりである。
これを上から順次かみあわせると、甲子 ─ 乙丑 ─ 丙寅のように組み合わさり、61回目に甲子に戻る。つまり合計60の組み合わせが生じるわけである。 現代風にいうと、ローマ字のABCD・・・と10進法の1234・・・を合わせて、A1、A2、A3・・・B1、B2・・・C1、C2・・・と表記するところであるが、干支の表記では、甲子、甲丑、甲寅とはせずに、甲子、乙丑、丙寅・・・と組み合わせたところが面白い。 そこで、干支を用いて日次を記すと、正月一日甲子から始まり、60日で一巡してまた甲子に戻る。 もし年次をかぞえるとすると、60歳めに元に戻るので、それを「還暦」という。最近は60歳の誕生日のことを「還暦」だという人がいるが、それは勘違いである。数え年の61歳の正月に還暦を迎えるのであって、誕生日に迎えるわけではない。干支が自分の生まれた年に還るので、還暦というのである。 ※注:数え年の61歳と満60歳は同じではない! その証拠に、昔は還暦といえば、「赤いちゃんちゃんこ」をプレゼントされたものだ。なぜちゃんちゃんこかというと、還暦は正月に迎えるものだから寒いのだ。昔は旧正月なのでなおさらだ。そこで、寒さに負けないで長生きしてねといって、ちゃんちゃんこを贈られる。けっしてお盆に還暦を迎えたりはしない。満年齢で歳を数える現代でも還暦ばかりは、正月に迎えることになるのである。 ※「還暦」は生まれた年の干支にもどるということから「赤ちゃんに還る」という意味合いを付加して、該当者に赤いちゃんちゃんこを贈るそうだが、それが寒い正月に行われるからこそ、「ちゃんちゃんこ」という発想が生まれるのである。
2.十干の意味について トップ↑ 十進法は手の指10本を数える点から生じたものだが、順番に名前を付ける場合、植物の生長の様子を思い浮かべた。芽を出し根を張り、茎が固く太って実り、刈り取って収穫が終わる、という手順をくり返して、年月が流れて行く。 【甲】[kɘ?p → kʌp] 合や盒と同系で、かぶせる意を含む。原字は魚のウロコの一こまかもしれぬが、ウロコも身体にかぶっておおうものであり、甲冑の甲(かぶと)も身体をおおうものである。植物動物が固いカラにおおわれている状態を広く甲という。 【乙】[Iet → Iĕt] 軋(アツ)(おさえる)と近く、上から下へおさえる意を含む。抑(イツ)(のち誤ってヨクと発音する)とまったく同系の語。また印(おさえる)の対転にあたる。抑の字の右側は、この印の字の変形したものである。 植物がなお抑圧されて伸び出せず、地下で屈曲している時である。 【丙】[pIăng → pIʌng] 原字は左右に張った魚の尾であろう。しかしこの語は、方(両方に張り出る) ─ 房(左右に張り出たわき屋) ─ 妨(両手を左右に張りだして、通せんぼする) ─ 柄(ピンと張ったエ)などと同系で、ピンと左右に張り出す意を含む。 丙とは植物の根がいよいよ左右に張り出る時期を表す。 【丁】[teng → teng] 原字は釘の頭、もしくは当て木の象形であろう。打(直角にあてる) ─ 釘(直角に打ちこむクギ) ─ 町(T型に行きあたるあぜ道) ─ 停(T型にあたって止まる)などと同系である。 丁とは、植物の芽が伸びようとして、地表にT型にあたり、なお表面に出きれない時期である。 【戊】[mog → mou →mɘu] 矛(ボウ・モウ)と同じくホコの象形である。しかしこのことばは、卯(ボウ・モウ)(むりに押しあける) ─ 貿(むりに求める) ─ 冒(むりに犯す)などと同系で、障害をおかして、むりやりに進む意を含んでいる。ホコもまた、敵の防ぎをおかして、むりに突進するための武器であるから(ボウ・モウ)という。 戊とは、植物の芽が、固い地表をおかして、無理に地上に顔を出す時期である。 【己】[kIɘg → kIɘi → kIei] 曲がりつつ起き立つさまを示し、後世の起の原字である。 植物の若芽がむっくと起き立つ時期である。 【庚】[kăng → kʌng] この字の大切な点は、中央に強い「─」線の通っていることで、何かの心棒を示す。庚は更(コウ)(固いシンを通す)と同系で、梗(シン棒) ─ 硬(かたいシン) ─ 「骨+更」(シンの骨) ─ 康(固く強い) ─ 「禾+康」(固いすじの通ったモミ)などと同系である。 植物の茎が固く成長し、また「禾+康」(モミ)の固く実る時期でもある。健康の康(固く強い体)とも同系である。 【辛】[sien → siĕn] 小刀を示す象形文字で、刀で切りとることを示す。「新−斤」(木を切る) ─ 新(植物を切りとる。右側に斤おのをそえて、切りとる意味を示した。刈り立ての木、なまなましい) ─ 薪(切りとった植物、草かんむりをそえて、植物を明示した)と同系のことばである。 辛とは、成長した植物を切りとる時期である。いわば薪(シン)の原字だと考えてよい。 【壬】[niəm → niəm → rIəm] 原字は糸を巻きとる糸まきの象形である。「糸+壬」(糸巻き。糸を巻きとって腹がふくれる) ─ 妊(子どもをはらんで腹がふくれる) ─ 任(仕事をかかえこむ)などと同系で、中に仕込んで太くふくれる意を含む。 壬とは、植物を取りこんで収穫物で蔵もふくれる時期である。 【癸】[kuer → kiuei → kiui] 原字は三鋒というよりむしろ四鋒のホコの象形である。そのホコを回転させて敵中におどりこむ。揆(キ・ふりまわす) ─ 「門+癸」(キ・ひとめぐり、楽章のひとめぐり)と同系で、ひと巡りする意を含む。 癸とは、ここで数の序列のひとめぐりし終わった所、つまり一旬(一巡)の終わりである。 ※『漢字文化の世界』(藤堂明保・角川選書)には、「十干」の説明の後に、「土圭(とけい)」についての記述があります。トケイ? おおっ!そうだったのか。たいへん興味深いお話です。是非『漢字文化の世界』(藤堂明保・角川選書)をご覧ください。 3.十干の日本語読みについて トップ↑ 十干は、それぞれ陰陽五行説の「木火土金水(モクカドゴンスイ)」に当てられる。五行はそれぞれ陽と陰に分けられ、日本語読みでは、陽をえ(兄)と呼び、陰をと(弟)という。 この表のように、五行の陽と陰が、え・と・え・と・え・と・・・ と繰り返されるので十干十二支(干支)のことを「えと」と呼ぶようになった。
4.十二支の意味について トップ↑ 子丑寅・・・・を用いて一日の時間を表すようになったのは、たぶん漢代のこと。それが日本に影響して「子(ね)の刻」だの「丑(うし)の刻」だのというようになった。後漢の許慎の『説文』では、子=一月、丑=二月のように、十二月の名に子丑寅・・・・を割りあてているが、これものちに起こった習慣らしい。殷の人たちは子丑寅・・・・と甲乙丙・・・・とを組み合わせて日次を記したのであり、月の序列は一月(正月) ─ 二月 ─ 三月のように、一二三・・・・によって表すのが常例であった。 ※十二支に動物をあてたのは?(クリック) 【子】(シ) 頭髪がどんどんふえて伸びるさまを示す象形文字。『説文』が滋(ジ・ふえる)意と解き、『漢書律暦志』が「孳萌」(ふえて芽生える)と解したように、子 ─ 滋 ─ 孳は同系のことば。 植物がこれから子をふやし生長しようとするタネ(種子)の状態を示す。 ※化生萬物者也。故孳萌於子,紐牙於丑,引達於寅,冒茆於卯・・・(『漢書律暦志』) 【丑】(チュウ) 手を曲げた姿を示す象形文字で、肘(チュウ・曲がる腕)と同系。『漢書律暦志』に「紐芽(曲がる腕や、芽が曲がりつつ伸びるさま)」と解したのが正しい。 植物が地下において、なお屈曲して伸びかねている時期を示す。 ※化生萬物者也。故孳萌於子,紐牙於丑,引達於寅,冒茆於卯・・・(『漢書律暦志』) 【寅】(イン) まっすぐに伸びた矢の形を示す。引や伸と同系の語。『漢書律暦志』に「引達」と解するのが正しい。のち体を伸ばして緊張する意から、「つつしむ」との意味を派生した。 植物がすくすくと伸び始める段階を示す。 ※化生萬物者也。故孳萌於子,紐牙於丑,引達於寅,冒茆於卯・・・(『漢書律暦志』) 【卯】(ボウ) 両側に押しあけたさまを表す。閉じたものや障害を押しのける意を含み、貿(障害をおかして利を求める) ─ 冒(おかす)などと同系の語。『説文』に冒と解し、『漢書律暦志』に、「冒茆」(おかし伸び出る)と解するのが正しい。また茂(モ・ボウ)(枝葉が上からかぶさる) ─ 冒(上からかぶさる。帽子の帽も同系)と考えることもできる。その場合は、植物の若葉が茂って、上からかぶさるさまを呈する時期と考えてもよい。 ※化生萬物者也。故孳萌於子,紐牙於丑,引達於寅,冒茆於卯・・・(『漢書律暦志』) 【辰】(シン) 貝の肉(いわゆるカイの足)がペラペラと動くさまを示す象形文字。弾性があって振(震)れる意を含む。『説文』は「震(ふるえて動く)」と解し、『漢書律暦志』は「振羨(シンセン・シンエン)(動いて伸びる)」と解釈している。 植物が芽をなびかせて動き、盛んに生長する段階である。 ※振美於辰,已盛於巳,咢布於午,蘇林曰:「咢音愕。」昧曖於未(『漢書律暦志』) ※龍・竜・辰(リュウ・シン・たつ)-漢字家族 【巳】(シ) 甲骨文字は子どもの象形。後世の巳(シ)の字は胎児の象形で、包(子宮で胎児をつつんださま)の字の内部と同じ。子房の中の種子のこと。 植物が種子をはらみ始める段階。 【午】(ゴ) 杵(きね)の原字で、上下させてモチをつきならす棒の象形。御の字に午を含むのは、固い穀物をつきならすように、きつい馬をならして従順に制御する意を表したものである。ゴ ngag → nga → ngo ということばは、五や互と同系で、交差する意を含む。十二進法の前半と後半が交差するポストを示す。後世の時間でいえば、午前と午後の交差点が正午にあたる。十進法の五と同じ着眼から出た数詞である。 【未】(ビ) 木のこずえの未熟な枝を示す象形文字。『漢書律暦志』に「昧曖」(マイアイ)と解するのは、今日いうアイマイな状態のことで、植物のなお成熟しきらぬ未熟な段階。 ※振美於辰,已盛於巳,咢布於午,蘇林曰:「咢音愕。」昧曖於未(『漢書律暦志』) 【申】(シン) 電光(いなずま)を表す象形文字で、後世の電の字の原字である。まっすぐに伸びきる意を含む。『漢書律暦志』に「申堅」(のびきって堅い)と解説したのは正しい。日本では電光は「イナ光り」「イナずま」と呼ばれ、稲の成熟をもたらすと考えられた。 作物の伸びきった時期。 ※申堅於申,留熟於酉,畢入於戌,該「門+亥」於亥。(『漢書律暦志』) 【酉】(ユウ) 酒をしぼるツボの象形。酋(シュウ・しぼり酒) ─ 酒(シュ・シュウ) ─ 「手+酋」(シュウ・引きしぼる) ─ 「手+秋」(引きしぼる)は、秋(シュウ・引きしめる → 収穫する)と同系である。酋とは、収穫した穀物で新酒を作る時と考えてもよいし、広く「引きしめてひと所に収穫する」意と解してもよい。『説文』は「就(ひと所に引きしめてまとめる)」と考え、『漢書律暦志』は「留熟(新酒を熟させる」)」と考えている。 ※申堅於申,留熟於酉,畢入於戌,該「門+亥」於亥。(『漢書律暦志』) 【戌】(ジュツ) ホコの象形。武器で守ること。西方北方の遊牧民族は、毎年収穫期をねらって黄河デルタに侵入し、農業民の収穫したものを略奪するのが、数千年にわたるこの地の習わしであった。 武器で収穫物を守る時期を戌(じゅつ)という。 【亥】(ガイ) ブタの全身に行き渡った骨組みを表す象形文字。亥は核(カク) ─ 骸(ガイ・骨組み)の原字で、亟(キョク・全身に行き渡る) ─ 極(上から下まで張った大黒柱) ─ 革(カク・全身を拡げ伸ばしてかわかした皮革)などと同系で、全部に行き渡る意を含む。『漢書律暦志』に該「門+亥」(全部に行き渡って備わる)と解したのが正しい。 この位置で十二進法が全部集結するとの意を表す。 ※申堅於申,留熟於酉,畢入於戌,該「門+亥」於亥。(『漢書律暦志』) 以上で、十二進法の数詞が、作物の生育の過程をとらえて名づけたものであることが明白となった。ただ中央の午と最後の亥とだけが、序列の位置に着眼した名称である。(藤堂明保) トップにもどる↑ |